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新たな認知症ラボの出発にあたって

斎藤正彦先生

総合監修 斎藤正彦 (サイトウ マサヒコ)

医療法人社団翠会・和光病院 元院長 [医学博士、精神保健指定医]

専門: 精神障害に関する法制度・行政制作、老年期痴呆ケアのサポートシステム
略歴: 1980年東京大学医学部卒業、都立松澤病院、ロンドン大学精神医学研究所、東京大学、慶成会老年学研究所等を経て、2006年10月〜2012年3月翠会和光病院院長
主著: 痴呆介護の100箇条』ワールドプランニング (2000) / 『親の「ぼけ」に気づいたら』文藝春秋 (2005) / 『老年臨床心理学-老いの心に寄りそう技術』有斐閣 (2005)

日本で、認知症の患者さんは200万人を超えると言われています。アルツハイマー病を始めとして、認知症を引き起こす病気の多くについては、根治的な治療法がありません。介護保険では、特別養護老人ホームのような施設介護資源の不足が著しく、進行した認知症の患者さんの介護負担は、依然としてご家族の肩に重くのしかかっています。そういう状況の中で、患者さん、ご家族、福祉・医療関係者の苦闘が続いています。

患者さん自身でも、ご家族でも、福祉や医療関係者でも、認知症への対応を考えるとき、まず、重要なことは、正確な知識です。すべての人が、専門家のように認知症の問題に精通するということは、もちろん、あり得ないことです。しかしながら、みんなが最小限の共通の認識を持つこと、少なくとも、不正確な知識、誤解や偏見を持たないことは、患者さん、ご家族、医療・福祉の専門職が、生産的なコミュニケーションを持つための必要最小限の条件です。

この認知症ラボは、認知症に関わる人すべてが、協力し合いながら、認知症という大問題と取り組んでいくための基盤となる、共通の認識を形成する、ということを目標として構成されています。発足からこれまで、認知症ラボは、多くの専門家が、認知症に関する様々な疑問、質問に答えるという形式で組み立てられてきました。ところが、専門家の間でも、立場の違いや、教育・訓練の違いなどによって、同じ問題に関する認識が微妙に異なり、たくさんのQ&Aを並べてみると、全体としての統一性に問題が生じるようになりました。そこで、今回は、私が認知症ラボのサイト全体を統括して編集することとし、全体を一つの考え方で統一することとしました。ウェブサイトは、従来のQ&Aを私が監修しなおしたものと、私の講義の動画などから構成されています。私一人で編集をすることには、大勢でする場合と比較してそれなりのリスクを伴いますが、それでも、認知症に関する広範な問題を一つの視点から眺めることで、全体の統一感が増し、利用していただく方の頭の整理には利点となることの方が多いと思われます。

認知症と向き合う時、重要なことは、科学的であることと人間らしくあることです。根拠のある客観的な事実に基づかない対処は無謀ですが、一方で、人間は科学的な根拠だけで穏やかな生活を手に入れられるわけではありません。このウェブサイトが提供しようとするのは、主に、認知症に関する科学的な根拠のある情報、あるいは、認知症によって引き起こされる様々な精神症状や行動上の問題に関する科学的な分析の方法です。科学は科学にすぎませんが、科学は不要な苦痛から私たちの心と体を解放します。苦痛が軽くなれば、少し生きやすくなります。どう生きるかは、結局一人一人、あなたと私の問題です。認知症になった人だって、他人に生かされているわけではありません。どんな生でも、それを生きているのはその人自身です。