パーソン・センタード・ケアとボランティア
前回は、パーソン・センタード・ケア(個人の意思を尊重したケア。以下PPC)とは従来の「任務や作業優先のケア」ではなく、「思いやりのこもった、人と人との関係を重要視したケア」であり、敬老シニアヘルスケアではそれをどのように取り組んでいるかについて説明させていただきましたが、私たちは、PCCとはコミュニティーが一つになって初めて実現するものだと考えています。それには施設のスタッフだけでなく居住者とその家族や友人、そしてボランティアも含まれます。
敬老にはおよそ800人ものボランティアが登録されています。敬老ヘルシーエイジング研究機関(以下IHA)では、今年の初め、ボランティアを対象に意識調査を行いました。その中で、ボランティアを始めた理由を年齢別に聞いたところ、以下の事柄が明らかになりました。
• ボランティア全体→「何かの役に立ちたい」、「人助けをしたい」
• 41歳から50歳→「人と一緒に何かをしたい」
• 51歳から64歳→「何かの役に立ちたい」
PCCとは「人と人との関係を築き深めることを重要視したケア」だと前述しましたが、ボランティアを始めた理由として挙げられた項目は、まさにそれに当てはまります。
敬老の施設を訪れたほとんどの方々は、スタッフとボランティアによる笑顔での挨拶にまず気づくことでしょう。そのような環境の中で、居住者とその家族、スタッフ、そしてボランティアは、毎日の触れ合いを通してより絆を強めることができます。これこそが、私たちのコミュニティーの土台となっているのです。
しかし、このような環境は、PCCの概念が導入される前から既にあったものです。しかも、特別なトレーニングが行われたわけでもありません。私たちは、これを「Keiro's Way(敬老のやり方)」だと認識し、それは50年前に創立者達によって確立された「居住者の文化背景を考慮し、継続したケアを提供する」というコンセプトと、日本的な思いやり、献身、そして奉仕の精神に根付いているものだと確信しています。
そして「Keiro's Way」は施設内だけでなく、コミュニティーでも実践されてきました。基金集めなどを積極的にしてくださるボランティアは、コミュニティーの人々に呼びかけ、敬老を支援するという共通の目的のために一つになります。そして、IHAのプログラムをコミュニティーで提供するボランティアは、プログラムの参加者と直接触れ合いながら、健康のための自己管理や介護についての情報を参加者と分け合い、サポートします。
その結果、安心する居住者、目的達成に共に励んだ仲間、そして情報を得ることで自信を得ることができたコミュニティーの人たちの感謝と満足感にあふれた笑顔を目撃したボランティアは、自分たちの行いが居住者やコミュニティーにとってプラスとなったと確信するでしょう。
しかし、コミュニティーが常に変化していくように、ボランティアのニーズも変わっていくことでしょう。そのような中で、これからも「Keiro's Way」を守っていけるようにするためには、次の世代のボランティアが何を求めているかを把握していく必要があります。
その一つとして、敬老では、ボランティアの特技や能力を、より正確にボランティアの内容とマッチさせるということに力を入れています。強いて言うならば、今までは敬老のニーズがあり、それに合ったスケジュールや能力のボランティアを探すという形でしたが、これからは、ボランティアが敬老に何を提供できるかという観点から、ボランティアの機会を作り上げていくということです。これはPCC のコンセプトを取り入れたボランティア・プログラムとも言えるでしょう。
さらに、現在のボランティア・プログラムを見直し、ボランティアの皆さんにより満足していただけるようなプログラムへと改善する努力もしています。その試みとして、昨年から、初めてボランティアをされる方々へのオリエンテーションを充実させたり、ボランティア限定の教育セミナーを設けたりしてきました。そして、コミュニティー・リソース・マネージャーという新しい職務を作り、日系コミュニティーに存在する教会やお寺、コミュニティー・センターとの関係をさらに深め、両者にとってプラスとなるボランティア・プログラムを目指しています。
このように、敬老にとってPCCという概念は決して新しいものではありませんでした。私たちは過去50年間、「Keiro's Way」を守り続けてきました。これからもこの伝統を絶やさぬよう、コミュニティーが一丸となって、絆を強めながら、前進していきたいと思います。
2010年8月31日 | 海外ボランティア事例 |
著者プロフィール

斎藤正彦
医療法人社団翠会和光病院 院長 [医学博士、精神保健指定医]
1980年東京大学医学部卒業、都立松澤病院、ロンドン大学精神医学研究所、東京大学、慶成会老年学研究所等を経て、2006年より現職。
認知症動画・e-Learning

ステン・ブンネ
Sten Bunne
Swedenの音楽療法の分野における第一人者。ストックホルム王立大学音楽教育学修士号取得(2006)、現在はフディクスヴァル市文化長であるとともに、音楽教育及び楽器製造会社「Musinova(ミュージノヴァ)」を共同経営する傍ら、ヨーテボリ大学、ヴェクショー大学、エーレブロ大学、ダーラナ大学等でも講師を務める。Swedish Care Istituteを通じて日本での講演も多数こなしている。
認知症動画・e-Learning

ヨアキム・カウト
Joakim Kautto
Swedish Quality Care、所長
1998年 ベルリンの障害学校研修
1999年 埼玉県植木研修生
2000年 ヴェクショー大学 (社会心理学と社会福祉士プログラム)
2005年 国際基督教大学、交換留学生 グループホーム職員のケアに関する日瑞比較研究
2005年 スウェーデン福祉研究所入社、 (プロジェクトマネージャー)
2008年 スウェーデンクオリティケア、所長
スウェーデンでの経歴
2年 パーソナルアシスタント
6ヶ月 ケアマネージャー
1ヶ月 アルコール中毒患者のための治療施設

友愛会 羽石祐子
明星大学心理学部卒業、カリフォルニア州ソノマ大学 カウンセリング修士課程卒業。ソノマ大学在学中、中学高校でスクールカウンセラーのインターンを1年間勤める。2006年から友愛会 (日系コミュニティーシニアセンター) にてケースマネージャーを勤める。ソーシャルサービス (医療、保険、法律、移民、住宅等に関する手続きの支援、及び情報提供) の他、高齢者介護のサポートグループをリード、友愛会のボランティアの教育・管理を行う。

草野可奈子
Keiro Senior HealthCare
Director of The Institute for Healthy Aging at Keiro (敬老ヘルシー・エイジング研究機関)
埼玉県浦和市(現さいたま市)に生まれ育つ。高校卒業後、コンコーディア大学アーバイン校に留学し心理学を専攻。卒業後、敬老シニアヘルスケアの運営する成人デイケアセンターに就職し、主にアルツハイマー氏病や認知症患者とその家族にさまざまなサポートを提供。デイケアセンターが閉鎖されるまで7年間勤め、その間、アルツハイマー氏病や認知症についての知識を深める。また、2004年に、カリフォルニア州立大学ロング・ビーチ校でソーシャル・ワーク修士号を取得。聖ヨセフ病院ホスピス、行動科学、カリフォルニア大学アーバイン校付属病院老人精神科病棟でソーシャルーワーカーの訓練を受ける。
現在は敬老ヘルシー・エイジング研究機関でディレクターを務め、高齢者の健康な加齢の促進を目的としたカンファレンスやその他の教育プログラムを地域に提供。また、敬老のボランティアプログラムの管理も行う。
