パーソン・センタード・ケア:高齢者の人間性と自律性を支持する介護
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近年、医療や長期介護の現場では、今までの長期介護の概念を根本から変えるようなパーソン・センタード・ケア(個人の意思を尊重したケア)という新しい概念が急速に取り入れられています。これは従来の「任務や作業優先のケア」から離れ、「思いやりのこもった、人と人との関係を重要視したケア」の提供を目標にする、まさに「カルチャーチェンジ」と言えるでしょう。
パーソン・センタード・ケアを実践するには、人間性を尊重すること、相手を理解すること、自律と選択を最大限に生かすこと、快適さを追及すること、スタッフと居住者の関係を築くこと、そしてこれらを支援する環境が必要になります。
そして、居住者とスタッフが一緒になって、居住者の意思や希望を取り入れ、従来の生活のパターンをできるだけ崩さないようなケアプランを作成します。たとえば、入浴は施設によって決められた時間や曜日ではなく、居住者が望むときにいつでも入れるように計画されます。また、食事は、業務の都合に合わせて全員が一斉に食堂で摂るのではなく、好きな時間に自分の部屋で済ませることもできるのです。
この様に個人の意思や希望を重視したケアを長期介護施設で提供するのは、決して容易なことではありません。また、居住者に介護を直接提供するスタッフだけが理解していても、首尾よく実践するのは困難です。パーソン・センタード・ケアを最も効果的に取り入れるには、各階級・部署の職員全員がそれをただ単に一つのプロジェクトとしてではなく、組織使命の核心として受け入れ、職務内容や方針と手順などはそれに基づいて作成されるべきです。
では、敬老ではパーソン・センタード・ケアはどのように取り入れられているのでしょうか?前回は、敬老の創立者たちのビジョンについて書かせていただきましたが、彼らは、1961年から、「高齢者を敬う」という社名に表されているように、居住者の文化背景を考慮し、継続したケアを提供するコンセプトを確立してきました。そこには、日本的な思いやり、献身、そして奉仕の精神が含まれています。また、多くの方々が指摘するように「文化背景を考慮する」とは、「こうしてほしいと居住者が口にする前にそのニーズに気付いてあげること」、あるいは、「空気を読む」とも表現されます。
50年経った今、このパーソン・センタード・ケアを取り入れることにより、敬老が長年守り、実践してきたものがますます洗練され、敬老という言葉の意味と長期介護における最善のケアを合わせて考えると、「個人を敬う介護の環境を創り出す」というのが現在における目標となります。
その一例として、もっと家庭的な雰囲気を感じていただけるよう、敬老施設の改築を進めてきました。そのような環境の中に暮らすことで、居住者はもっともっと癒され、満足できるのだと実感しています。また、敬老の施設において生活の中心である食事の時間をより楽しく過ごしていただくためには、どんな食事をどのように提供すればよいのかということをより深く考えています。もっと食事の選択肢を増やし、もっと楽しく食事をしていただける環境を提供することは、小さなことかもしれませんが、重要な課題です。
また、居住者、家族、そして職員が、お互いのニーズや希望などをより理解できるようにするために、居住者のケアに常に同じ職員を担当させるという試みも始めました。これによってケアがより一層改善され、居住者や家族の方々により満足していただけることが分かりました。
パーソン・センタード・ケアの実践にもう一つ忘れてはならない要素があります。それはボランティアです。敬老には800人以上のボランティアが登録されており、お散歩や陶芸、体操、お習字など、各施設で提供されているレクリエーションはボランティアの協力なしでは決して成り立ちません。
また、前回紹介した敬老ヘルシー・エイジング研究機関では、訓練を受けたボランティアを介して、居住者だけに限らず、コミュニティーに住む高齢者のために、リサーチに基づき、その効果が認められた健康促進プログラムなどを、提供しています。
このように、敬老ボランティアは、居住者およびコミュニティーに住む高齢者の生活の質を高め、その家族の方々と良き関係を築いていくために重要な働きをしています。
次回はアメリカのボランティア事情や、敬老ボランティアがどのようにパーソン・センタード・ケアに貢献しているかをもっと詳しくご紹介したいと思います。
2010年6月30日 | 海外ボランティア事例 |
著者プロフィール

斎藤正彦
医療法人社団翠会和光病院 院長 [医学博士、精神保健指定医]
1980年東京大学医学部卒業、都立松澤病院、ロンドン大学精神医学研究所、東京大学、慶成会老年学研究所等を経て、2006年より現職。
認知症動画・e-Learning

ステン・ブンネ
Sten Bunne
Swedenの音楽療法の分野における第一人者。ストックホルム王立大学音楽教育学修士号取得(2006)、現在はフディクスヴァル市文化長であるとともに、音楽教育及び楽器製造会社「Musinova(ミュージノヴァ)」を共同経営する傍ら、ヨーテボリ大学、ヴェクショー大学、エーレブロ大学、ダーラナ大学等でも講師を務める。Swedish Care Istituteを通じて日本での講演も多数こなしている。
認知症動画・e-Learning

ヨアキム・カウト
Joakim Kautto
Swedish Quality Care、所長
1998年 ベルリンの障害学校研修
1999年 埼玉県植木研修生
2000年 ヴェクショー大学 (社会心理学と社会福祉士プログラム)
2005年 国際基督教大学、交換留学生 グループホーム職員のケアに関する日瑞比較研究
2005年 スウェーデン福祉研究所入社、 (プロジェクトマネージャー)
2008年 スウェーデンクオリティケア、所長
スウェーデンでの経歴
2年 パーソナルアシスタント
6ヶ月 ケアマネージャー
1ヶ月 アルコール中毒患者のための治療施設

友愛会 羽石祐子
明星大学心理学部卒業、カリフォルニア州ソノマ大学 カウンセリング修士課程卒業。ソノマ大学在学中、中学高校でスクールカウンセラーのインターンを1年間勤める。2006年から友愛会 (日系コミュニティーシニアセンター) にてケースマネージャーを勤める。ソーシャルサービス (医療、保険、法律、移民、住宅等に関する手続きの支援、及び情報提供) の他、高齢者介護のサポートグループをリード、友愛会のボランティアの教育・管理を行う。

草野可奈子
Keiro Senior HealthCare
Director of The Institute for Healthy Aging at Keiro (敬老ヘルシー・エイジング研究機関)
埼玉県浦和市(現さいたま市)に生まれ育つ。高校卒業後、コンコーディア大学アーバイン校に留学し心理学を専攻。卒業後、敬老シニアヘルスケアの運営する成人デイケアセンターに就職し、主にアルツハイマー氏病や認知症患者とその家族にさまざまなサポートを提供。デイケアセンターが閉鎖されるまで7年間勤め、その間、アルツハイマー氏病や認知症についての知識を深める。また、2004年に、カリフォルニア州立大学ロング・ビーチ校でソーシャル・ワーク修士号を取得。聖ヨセフ病院ホスピス、行動科学、カリフォルニア大学アーバイン校付属病院老人精神科病棟でソーシャルーワーカーの訓練を受ける。
現在は敬老ヘルシー・エイジング研究機関でディレクターを務め、高齢者の健康な加齢の促進を目的としたカンファレンスやその他の教育プログラムを地域に提供。また、敬老のボランティアプログラムの管理も行う。
